2017.1.27(金)

いわゆる共謀罪を創設する組織犯罪処罰法改正法案の国会への提出に強く反対する会長声明

 政府は,テロ対策の必要性や国際組織犯罪防止条約を批准するために必要な法整備である等として,テロ等組織犯罪準備罪の新設等を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正法案(以下,「本法案」という。)を1月20日招集の今通常国会会期中に提出し成立を目指す方針を示しており,官房長官記者会見や総理大臣の国会答弁においても,本法案を今国会に提出し成立を図る考えが述べられている。
 しかし,本法案は,以下に述べるとおり,これまで3度にわたり国会に提出され廃案となったいわゆる共謀罪法案と,その本質において何ら異なるものではなく,きわめて危険な法案であって到底容認できない。
共謀罪は,複数の者が犯罪を行うかのような内心を,言葉にして話しただけで,実際にその犯罪のための行為についてなんら着手していなくても,共謀自体を罪として処罰する内容である。このような犯罪類型が設けられれば,特定の物事への憤りの表明といった内心の吐露すらも,取り締まり対象となることを危惧しなければならず,思想良心の自由,表現の自由,通信の秘密が著しく脅かされた息苦しい社会になってしまう。
それゆえに,これまでも激しい批判を受け,共謀罪法案はその都度廃案となってきたのである。報道によれば,本法案においては,「法定刑が4年以上の懲役・禁固刑が定められている罪の実行を目的とする組織的犯罪集団」を対象とすることや,「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の準備行為」を構成要件とすることで懸念の払拭を図り,また,処罰対象が広すぎるとの批判を受けて,処罰対象となる犯罪を600以上から半分以下に減らすことが検討されているようである。
 しかし,たとえそのような修正がなされたとしても,犯罪の合意のみで,広汎に処罰対象となる危険な本質に変わりはない。
 いくら一般市民はテロと無関係であることを強調したところで,テロと関係あるかどうかの判断については,結局「その他の準備行為」に該当するかどうかというあいまいな基準によることになるから,当該共謀をなした容疑で逮捕状を請求することの妨げにはならない。
 また,いくら慎重に捜査するといっても,共謀の有無を捜査するための有力な証拠を得るためには,盗聴をしたり,密告に頼ることになりかねない。このような捜査が広く行われることになれば,思想良心の自由,表現の自由,通信の秘密,は根底から揺らぐことになる。
 一般論としてテロ対策を行うことはもちろん否定されるものではないが,それがいわゆる共謀罪制定に置き換わってはならない。
 以上の理由から,その他の個別的問題点に触れるまでもなく,本法案の通常国会への提出には断固反対する。

2017年(平成29年)1月27日
函館弁護士会
会長 平井 喜一

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