国際司法裁判所(ICC)などへの制裁措置に反対し、国際司法の独立性と公平性、日本を含む国際社会に「法の支配」が維持されることを強く望む会長声明
1 国際刑事裁判所(International Criminal Court。以下「ICC」という。)は、国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪(集団殺害犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪)について、その責任を有する個人に対し、国際法に基づいて刑事責任を追及することを目的とした常設の国際刑事司法機関(裁判所)である。
平和な生活を望む一般の市民が、独裁者による圧政、戦争、内戦や地域紛争に巻き込まれるなどして、残虐な行為の犠牲者となっている。このことからすれば、ICCが果たす役割は大きい。ICCが外部から圧力を受けることなく独立性と公平性を保つことは、日本を含む国際社会に「法の支配」に基づく国際秩序を保つ上で不可欠であるといえる。
2 日本国憲法は、前文において、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。」と述べ、国際協調主義及び全世界の国民の平和的生存権の尊重を基本的理念として定めている。
そして、日本政府も、「法の支配」に基づく国際秩序の形成のため、国際社会の一員として世界の平和と繁栄に貢献することを外交政策の基本理念としており、ICCの存在と役割はこれら理念と合致するものである。
日本は、2007年10月にICCに加盟し、これまで複数のICC判事を輩出し、また、ICCに対し多くの分担金を拠出するなど、人的にも経済的にも、ICCの活動に大きく貢献してきた。
3 しかし、近年、ICCに対して、複数の国から不当な圧力が加えられている。
2026年8月、米国政府は、ICCの所長である赤根智子氏(以下「赤根所長」という)らを制裁対象に指定し、在米資産の凍結及び米国への渡航禁止措置をとった。
赤根所長は、我が国で長く検察官を務めた後(函館地方検察庁検事正などを歴任)、2017年にICC判事に選出され、2024年3月に日本人として初めて所長に選任された法曹である。
米国政府はこれまでにも、ICCの解体を主張し、加盟国にICCからの脱退を呼びかけるなどして、ICCへの圧力を強めてきたが、この制裁措置は、ICCの所長個人にまで制裁を課すものであり、由々しき事態である。
さらに、2026年10月、米国政府は、ICCの在米資産の凍結、ICCとの取引をアメリカ企業に禁止するなど、制裁の発動までに6カ月の猶予があるとしているものの、ICC自体に広範な制裁措置をとった(以下、一連の制裁を「本件制裁措置」という。)。
4 裁判所及び裁判官が法を適正に適用したこと、又はその地位にあることを理由として不利益を課されることは、司法権の独立を否定するものであり、権力から独立した公正な裁判は成り立たない。
特に国際社会におけるICCが果たす機能からすればその弊害は顕著であり、「法の支配」に基づく国際秩序を著しく破壊するものである。
世界各地で武力紛争が絶えない今、ICCが国際社会で果たすべき法の支配を貫徹するという役割がますます重要なものとなり、その存在意義は大きくなっている。仮にICCの存立が脅かされる事態になれば、武力紛争下の平和な生活を望む一般市民、とりわけ高齢者、女性や子どもなど弱い立場にある人々の保護がより困難になることは明らかである。
5 当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士・弁護士会として、本件制裁措置を看過することはできない。国際社会において「法の支配」の堅持に向けて尽力するICCへの不当な圧力として本件制裁措置に断固反対する。また、当会は、ICCの活動を支持するとともに、速やかに本件制裁措置が解除され、国際司法の独立性と公平性、日本を含む国際社会において「法の支配」が維持されることを強く望む。
日本政府は、本件制裁措置に関し、2026年8月の制裁措置の際には「大変深刻に受けとめている」などと表明し、さらに、2026年10月の制裁措置の際には、各国と共同で「ICCの独立性、公平性、及び完全性に対する継続的かつ揺るぎない支持を改めて表明します。ICCの断固たる支持者として、私たちは米国による裁判所への制裁の発表を遺憾に思い、強く反対します。」などと表明している。しかしながら、日本国憲法が定める国際協調主義及び全世界の国民の平和的生存権の尊重の理念からは、ICC、そして赤根所長がその職務を全うできるよう対応することが重要であり、当会は、日本政府に対して、米国政府へのより積極的かつ実効的な働きかけを強く求める。
2026年10月21日
函館弁護士会
会長 兼平 誠也

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