再審手続に関する「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」の参議院審議に向けた会長声明
再審手続に関する内閣提出の「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」( 以下(「内閣提出法案」という。)、及びこれに対する自民党・日本維新の会・参政党の修正案 以下「自・維・参修正案」という。)は、本年6月16日、衆議院で可決され、今後、参議院に審議の場を移すこととなった。
この内閣提出法案は、証拠提出命令の制度化、再審開始決定に対する検察官の不服申立ての原則禁止を含むものであり、法制審議会が法務大臣に答申した内容と比較すれば前進した内容であると評価できる面もある。
また、衆議院可決までの間にも、えん罪被害者の救済のため、再審制度をより良いものにしたいという思いを持つ、党派を超えた多くの国会議員の奮闘があり、同議員の方々には深く感謝する次第である。
しかしながら、えん罪が極めて苛烈な人権侵害であり、えん罪被害者を確実かつ速やかに救済できる法制度を作らなければならないという再審法改正の目的からは、内閣提出法案及び自・維・参修正案には、いまだ積み残された課題が多く、不充分なものといわざるを得ない。
まず、第1に、内閣提出法案には、職権による直接開示型の証拠開示制度の規定がない。
内閣提出法案は、証拠提出制度を定めているものの、これは裁判所が検察官に対して(「裁判所に」証拠の提出を命じるものである。そして、その対象となるのは、再審請求理由と関連する証拠で、裁判をするために必要かつ相当と認めるものに限られている。そのため、裁判所が証拠の持つ価値を正しく理解せず、再審請求理由についての判断に必要がないと判断すれば、再審請求人がその証拠にアクセスする機会が奪われかねない。しかし、証拠価値を正確に把握できるのは、当事者である再審請求人やその弁護人である。したがって、えん罪被害者救済の観点からは、当事者である再審請求人やその弁護人に対して、主張立証の準備のために必要な証拠が幅広く開示される必要がある。
そこで、請求人の再審請求権を実質的に保障するために、再審請求人の主張立証のために必要な証拠を幅広く開示しうる職権による「証拠開示命令」の制度を設けることが必要である。
第2に、内閣提出法案には、証拠一覧表又はこれに代わる送致書類等目録を再審請求人やその弁護人に開示する規定がない。
内閣提出法案は、裁判所が証拠提出命令の判断をするにあたり必要があると認める場合に、証拠の「標目の一覧表」の提出を命じることができると定められているが、この「標目の一覧表」は裁判所しか見ることができないものとされている。
再審請求人やその弁護人が証拠の提出・開示を請求するにあたり、検察官が保管する証拠の全容を把握できるリストがないという状況では、無罪につながる証拠にたどり着くことが極めて困難であり、仮に開示に至ったとしても多くの時間を要する。
そのため、再審請求人やその弁護人が証拠開示の手がかりを得られるよう、裁判所が検察官に保管証拠の一覧表( またはこれに代わる送致書類等目録)の提出を命じ、弁護人がこれを閲覧・謄写できる制度を設けることが必要である。
第3に、内閣提出法案では、再審請求人やその弁護人が検察官から裁判所に提出された証拠の複製を刑事裁判以外の目的に使用することを一律に禁止し、これに違反した場合の罰則が設けられている。
たしかに、証拠には被害者等の関係者の名誉・プライバシーに関する情報が含まれることがあり、このような場合に名誉・プライバシーを保護するのは当然である。しかしながら、そのような弊害の有無にかかわらず「一律に」証拠の目的外使用を禁止することは過度の規制であって、犯罪被害者の保護のためであれば、(「裁判所は、当該証拠に係る複製等の使用目的を制限し、その他適当と認める条件を付することができる」といった趣旨の規定を設ければ足りるのである。
目的外使用の一律禁止規定は、再審弁護人や支援者の活動に萎縮効果を与えかねず、えん罪被害者の救済を一層困難にさせるものである。
第4に、自・維・参修正案では、附則2条の「施行後5年ごとの検討」項目として、「証拠の目的外使用の禁止」と「証拠の一覧表」に関する制度を例示し、「必要があると認めるときは」検討結果に基づいて所要の措置を講ずるとしている。しかしながら、これは法案の審理過程で顕在化した問題点をそのまま先送りにするものに過ぎず、しかも、この附則によって検討や修正が義務付けられるものでもない。
より深刻な問題は、同修正案によって追加された附則4条2項である。この条項では、裁判所による証拠開示の勧告が(「運用上の措置」と位置付けられ、裁判所からの証拠開示勧告に対する検察官による証拠開示が(「任意」のものと位置付けられている。
これは、裁判所の証拠開示命令権限を否定しかねないものである。検察官は、裁判所から証拠開示勧告を受けたとしても、それは裁判所の(「権限」に基づかない(「運用上の措置」に過ぎず、勧告に従うか否かは「任意」であるとして、証拠開示を拒否する事態が生じかねない。証拠へのアクセスこそがえん罪被害者の救済の鍵であることからすれば、このような規定はえん罪被害者の救済という改正の目的に反するものである。
このほか、再審開始決定に対する検察官不服申立ての禁止の例外を認める規定など、えん罪被害者の救済という本来の目的に反する条項がいまだに残っている。
再審手続に関する法案の改正の必要性は、再審請求に関する手続規定が存在せず、審理の在り方が裁判官の裁量と検察官の判断に基づく運用に委ねられた結果、えん罪被害者の迅速かつ確実な救済が妨げられてきたという、まぎれもない立法事実に基づくものである。
えん罪という極めて苛烈な人権侵害を防ぐことは、国に課せられた責務である。当会は引き続き、よりよい再審法の改正が実現するよう、参議院での審議において、上述した問題点を含め、えん罪被害者が確実かつ速やかに救済されるよう法案が修正されることを求めていく所存である。参議院における「良識の府」としての充実した審議を強く期待する次第である。
2026年6月26日
函館弁護士会
会長 兼平 誠也

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