2023.9.1(金)

刑事訴訟法における「再審法」の速やかな改正を求める総会決議

第1 決議の趣旨

 当会は、国に対し、現在の再審手続きの実情及び刑事訴訟法上の再審に関する規定の問題点を踏まえ、
(1)再審請求手続における証拠開示
(2)再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止
に係る規定の新設を含む法改正を速やかに行うよう求める。

第2 決議の理由

1 現行刑事訴訟法の「再審法」

(1)再審は、誤判により有罪の確定判決を受けたえん罪被害者を救済することを目的とする制度である。無実の者が処罰されることは絶対に許されないのであり、誤判の合理的疑いが生じた場合には、同制度を通じて、速やかにえん罪被害者の尊厳回復、無辜の救済が図られなければならない。

(2)しかし、現行刑事訴訟法上の再審に関する規定(刑事訴訟法第4編、以下「再審法」という。)は、第435条から第453条までのわずか19条しか存在していない。しかも再審請求手続きにおける審理のあり方については、刑事訴訟法第445条が「裁判所は、必要があるときは、再審請求の理由について、事実の取調べを行うことができる」旨を定めているにすぎず、再審請求人の権利保護のための手続規定は一切設けられていない。そのため、再審請求審及び再審の審理方法は、職権主義的構造とされ、裁判所の広い自由な裁量に委ねられている状況である。
 その結果、再審の係属裁判所によって、再審に関する審理過程や結果が大きく変わりかねないという「再審格差」の問題が指摘されている。
 さらに、裁判所が確定判決の有罪認定に対して合理的な疑いが生じたと認めて再審開始の決定をしても、検察官が不服申立てを行う結果、再審請求手続が長期化する事例が相次いでいる。
検察官の不服申立てにより、再審開始決定が覆った事案があるほか、再審開始決定が維持されたとしても、その判断がなされるまでに相当長い時間を要した事案もあり、あらゆる意味でえん罪被害者の速やかな救済が妨げられている。
 つまり、諸手続に関する規定が十分に整備されていない現状では、えん罪被害者の救済のための制度としての再審が機能不全を起こしていることは明らかである。
  「再審法」の改正においては、再審事由の緩和ないし拡大、再審請求者の拡大、再審における国選弁護制度の新設も重要な論点であるが、上記の重大な人権侵害の早期の解決のためには、特に以下に述べるとおり、再審における証拠開示制度の新設並びに検察官による不服申立を禁止することはとりわけ重要な改正点である。

2 再審法の重要な改正点

(1)証拠の開示制度を認める規定の新設

ア 確定判決を争う再審において、新たな証拠の有無が重要であることは論を待たない。しかし、再審請求時には、証拠が時間の経過により消滅していることも多く、また、再審請求人において証拠収集すること自体も極めて困難である。このため、捜査機関が所持する証拠の開示を請求することが重要な手段となるのであり、過去の多くのえん罪事件において、捜査機関の手元にある証拠が再審段階で明らかになり、それがえん罪被害者を救済する大きな原動力となってきた。
 ところが、「再審法」には、証拠の開示の制度が全く存在していない。このため、えん罪を証明する重要な手段である捜査機関が所持する証拠の開示は、裁判所の広範な裁量に基づく、強制力のない訴訟指揮としてなされるのみとなっている。その結果、裁判所が証拠の開示を積極的に指揮しないことが生じるばかりか、検察官をはじめとする捜査官の対応によっては裁判所の意図にも反する不開示という結果すら生じているのである。
イ 通常審においても本来は「疑わしきは被告人の利益に」の原則から全面的証拠開示が必要であるが、不利益再審が禁じられた現行の再審制度は、無辜の救済のための制度であり、再審請求時には全面的に証拠が開示される必要性がより高い。現在、公判前整理手続きに付された事件については、不十分ながらも、証拠一覧表交付、類型証拠・主張関連証拠開示といった手続きが法定されており、敢えて再審に関する証拠開示手続きを法定しない理由はない。しかも、再審請求時には、警察・検察の手持ち証拠以外の証拠が時間の経過により消滅している危険性が高いと考えられるため、その必要性は一層高い。他方、罪証隠滅や証人威迫といった、証拠開示の弊害も著しく低減していると言えるから、証拠開示の許容性も認められるのである。
 再審における全面的証拠開示については、2016(平成28)年の刑事訴訟法改正において法制審で議論されたものの、改正は先送りとなった経緯がある。この際、改正附則9条3項は「政府は、この法律の公布後、必要に応じ、速やかに、再審請求審における証拠の開示(中略)について検討を行うものとする」としている。再審における全面的証拠開示を明文化する「再審法」改正が必要であることは、立法府自身も認めているところである。
 したがって、「再審法」には証拠の開示制度を認める規定を新設しなければならない。

(2)再審開始決定に対して検察官に不服申立を禁止する規定の新設

ア 現行刑事訴訟法上は、再審開始決定に対して検察官が不服申立てをすることができると理解され、近年は、再審開始決定が下されると検察官が即時抗告、特別抗告を申し立てるケースが増えている。
イ この結果、再審請求審の長期化に伴う再審請求人・関係者らの高齢化などの著しい弊害を生じている。殊に、再審開始決定には、当然に刑の執行停止効が伴わないため、再審請求審が長期化することの影響は甚大なものがある。それを端的に示す例が、いわゆる「袴田事件」である。
 「袴田事件」の第二次再審の請求審において、静岡地方裁判所は、2014(平成26)年に再審開始と拘置及び死刑の執行停止を決定した。これに対し検察官が即時抗告をし、東京高等裁判所は、2018(平成30)年、再審請求を棄却する決定をした。これに対して弁護団が特別抗告を申し立て、最高裁判所第三小法廷は、2020(令和2)年、東京高等裁判所の上記決定を取り消し、東京高等裁判所に差し戻すと決定した。これを受けて東京高等裁判所は、本年3月13日、検察官の即時抗告棄却を決定した。同決定に対して、検察官が特別抗告を行わずに再審開始が確定するに至ったが、静岡地方裁判所の再審開始決定から確定まで、実に9年を要したのである。
 しかも、再審公判は未だ開始されておらず、逮捕から47年余り身柄拘束を受け、2014(平成26)年の再審開始決定の際に釈放されたものの、再審開始決定から約9年もの時間を経ながら、袴田巌氏は、いまだ確定死刑囚のままである。このような経過を見れば、「再審法」における検察官の不服申立による影響の甚大さは優に知れる。
ウ そもそも、再審開始決定は、裁判をやり直すことを決定するにとどまり、有罪・無罪の判断はあらためて再審公判において行われるものである。再審開始決定を受けても検察官が有罪と考えるのであれば、再審公判において主張、立証を尽くせば良いのであり、不服申立てを制限されたとしても、検察官にとって何ら不都合はない。それにも関わらず、いわば中間的な判断に対して検察官の不服申立てを認めていることは、実情に照らせば再審請求手続きの長期化という弊害を生じさせているに過ぎない。再審開始決定がなされたのであれば速やかに再審公判に移行することが必要である。
 したがって、「再審法」には再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止する規定が新設されなければならない。

3 結論

 以上から、当会は、国に対し、えん罪被害の実態を直視しその被害を早期に救済できるようにするため、再審手続きにおける証拠開示規定、検察官の再審開始決定に対する不服申立を禁止する規定を新設することを含む「再審法」の改正を速やかに行うよう求める。

以上

令和5年(2023年)9月1日
函館弁護士会
会長 堀田 剛史

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