低賃金労働者の生活を支えて経済を活性化するために、最低賃金額の引上げ 及び全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明
昨年度、最低賃金金額の全国加重平均金額は930円から961円に引き上がり、北海道の最低賃金金額もまた889円から920円と引きあがった。
しかし、920円という時給を基準としても、労働者は、フルタイム(1日8時間、週40時間、月173時間)で働いても、月収約15万9160円、年収約191万円しか得られないこととなる。円安やロシアのウクライナ侵攻の中で、食料品や光熱費など生活関連品の価格が急上昇している現状において、子どもがいる若年層世代のみならず、あらゆる世代が最低賃金のみで生活を維持することが難しいことは自明である。
政府は、2022年6月7日に発表した「新しい資本主義実行計画工程表」の中で、「最低賃金については、生計費、賃金、賃金支払能力を考慮しつつ、その引上げを図り、できる限り早期に全国加重平均が1000円以上にとなることを目指す」と明記していたが、前述した働く者の生活そのものが厳しい現状に鑑みれば、「目指す」のではなく、一刻も早い「実現」が必要である。
また、2022年の最低賃金は、最も高い東京都で時給1072円であるのに対し、最も低い10県では時給853円となっており、地域間格差は依然として大きく、格差は是正されていない。
地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は、最近の調査によれば、都市部と地方の間で、ほとんど差がないことが明らかになっている。これは、地方では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限されるため、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。
生計費の高さから都市部と地方の最低賃金の格差を正当化することは困難であり、むしろ、最低賃金の格差が、最低賃金が低い地域の人口減ひいては経済停滞の要因ともなっている。都市部への労働力の集中を緩和し、他の地域に労働力を確保することは、地域経済の活性化のみならず、都市部への一極集中から来る様々なリスクを分散する上でも極めて有効である。
厚生労働省の中央最低賃金審議会に設置された「目安制度の在り方に関する全員協議会」が本年4月6日にまとめた報告では、現行のAないしDの4段階の目安区分を3段階とすることが提案されている。しかし、これではCランクの引上額を、Aランクの引上額より大幅に上回るものとするなど抜本的な方策でも採られない限り、地域間格差の迅速な解消は望めない。中央最低賃金審議会は、現行の目安制度が地域間格差を解消できなくなっていることを直視し、目安制度に代わる抜本的改正策として、全国一律制実現に向けた提言をなすべきである。
もっとも、最低賃金の引上げは、人件費の増大に直結するため、中小企業の経営状況や雇用情勢に与える影響は大きい。
国は、最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策について、現在、「業務改善助成金」制度による支援を実施しているが、その支援は未だ十分とは言い難く、日本の経済を支えている中小企業が、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行うことができるよう十分な支援策を講じることが必要不可欠である。例えば、社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減すること、原材料費等の価格上昇を取引に正しく反映させることを可能にするよう法規制することなどの支援策も有効であると考えられる。
以上より、当会は、中央最低賃金審議会、北海道地方最低賃金審議会及び北海道労働局長に対して、最低賃金の大幅な引上げを求めるとともに、国及び北海道に対し、最低賃金の引上げによる影響を受ける中小企業への十分な支援策を求める。
以上
令和5年(2023年)6月15日
函館弁護士会
会長 堀田 剛史