司法修習生の世代間における不平等是正を求める会長声明
2011年(平成23年)の裁判所法の改正により,司法修習生に対する給費制が廃止され,それ以降に司法修習を受けた新第65期以降の司法修習生は,無給での司法修習を強いられ,司法修習中の生活費等を必要とする者は貸与制の下での貸与を受けざるを得なくなった。
その後,当会を含む単位会,日弁連などの活動により,2017年(平成29年)4月19日に,裁判所法が改正され,第71期以降の司法修習生に対する新たな修習給付金制度が創設された。
ところが,2011年(平成23年)から2016年(平成28年)の間に無給で司法修習を受けた者(新第65期ないし第70期司法修習生。いわゆる「谷間世代」。)については改正裁判所法に言及がなかった。
このような経緯により,三権の一翼である司法を担う法曹となるべく、新第65期以前及び第71期以後の司法修習生と同じく修習専念義務を負いながら司法修習を受けていたにもかかわらず、谷間世代のみが無給で司法修習を受けざるを得ない状態に置かれ、それ以外の司法修習生と比較して著しく重い経済的負担を負うという不平等な状態に置かれる結果となっている。
このような状況を踏まえて,当会では2020年(令和2年)8月20日に「修習資金の貸与を受けた元司法修習生の不平等・不公平を是正するための措置・施策等を求める会長声明」を発出し,司法修習の谷間世代の不平等に対する是正のための立法措置を求めたものの,現在まで,国から何らの救済措置も取られない状態となっている。
谷間世代の弁護士へは,2019年(平成31年)より,日本弁護士連合会が谷間世代の受給要件を満たす申請者に給付金20万円を給付することを決定し,2020年(令和2年)に,当会も谷間世代の受給要件を満たす申請者に給付金10万円を給付することを決定したところであるが,谷間世代への経済的負担,不平等・不公平感を解消させるには決して十分なものではない。
司法修習制度が、修習専念義務を課したうえで国の責任で法曹を養成する制度である以上、司法修習生が修習に専念できるに足る生活保障を行うことは当然のことであり、貸与制の導入が誤りであったからこそ,わずか6年という短期間に再び裁判所法の改正を行い,一部ではあるが司法修習生に対する経済的施策を導入したのである。
貸与制と給費制の間で揺れ動いた制度の狭間で,谷間世代が経済的に不合理な不平等を強いられている現実がある以上,これを是正することもまた国の責務である。
この問題は司法の場でも指摘され,2019年(令和元年)5月30日の名古屋高等裁判所における給費制廃止違憲訴訟控訴審判決では「従前の司法修習制度の下で給費制が果たした役割の重要性及び司法修習生に対する経済的支援の必要性については決して軽視されてはならない(中略)例えば谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなど事後的救済措置を行うことは,立法政策として十分に考慮に値するのではないかと感じられるが,そのためには,相当の財政的負担が必要となり,これに対する国民的理解も得なければならないところであるから,その判断は立法府に委ねざるを得ない。」とされている。
過半数の国会議員からの応援メッセージを得たことからも,まさに立法府の判断が求められている状況にあるといえる。
以上より,当会は改めて,谷間世代に対する不平等を生み出した制度的不備を是正するため,国による谷間世代への新給付金相当額又はこれを上回る金額の一律給付が実現することを強く求めるものである。
以上
令和5年(2023年)6月15日
函館弁護士会
会長 堀田 剛史