裁判所速記官養成再開を求める会長声明
速記官制度は、裁判記録の正確性と公正さを担保するとともに、迅速な裁判を実現するために必要不可欠な制度であり、裁判所法第60条の2第1項で「各裁判所に裁判所速記官を置く。」と明確に定めている。
ところが、最高裁判所は1997年(平成9年)に裁判所速記官の養成停止を決定し、1997年に806人配置されていた裁判所速記官は、2022年(令和4年)には151名に減少している。
最高裁判所は裁判所速記官による裁判記録に代え、民間委託による録音反訳方式、裁判員裁判については、音声認識システムを導入している。
録音反訳方式については、速記官による記録作成の場合に比し、一般的に調書の完成までに日数がかかり、また、反訳を行う者が法廷に立ち会っていないため、 その場で発言者の発言の内容を確認することは不可能であり、 録音媒体から発言者の発言を正しく確認することができず、正確な反訳が困難となる可能性があり、迅速かつ正確な記録という意味において、速記官による記録作成に劣る。更に、委託業者による情報漏えい等、プライバシー保護が十分に図られない可能性もある。
音声認識システムについては、その認識率が十分とは言えず、文字化も不正確であり、裁判員裁判において訴訟準備や評議において資料として利用できる程度の正確性を有していない。裁判員裁判においては、法廷での証人等の発言の内容を即時、正確に確認することが不可欠であり、速記官による記録作成の必要性が極めて高い。なお、音声認識システムについては令和6会計年度中に運用を停止する方針が決定されたが、その正確性や、文字化されることによる検索の利便性等において、速記官による記録作成よりも優れた制度は考え難い。
国民の公正・迅速な裁判を受ける権利を保障するためには、公正で客観的な記録が迅速に作成されることがその前提であり、専門的な研修を受けた裁判所速記官による速記録の作成が不可欠である。
よって、当会は、最高裁判所に対し、速やかに裁判所速記官の養成を再開するよう改めて強く求める。
令和5年(2023年)3月1日
函館弁護士会
会長 柳 順也