2015.7.8(水)

少年法の適用年齢引き下げに反対する会長声明

 平成27年6月17日、選挙権の年齢を18歳まで引き下げる公職選挙法等の一部を改正する法律が成立したが、同法律の附則には「少年法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」との定めがある。そして、これを受け、与党自由民主党は、「成年年齢に関する特命委員会」を設置し、少年法の適用年齢を現行の20歳未満から18歳未満に引き下げることを検討している。
 しかし、選挙権の年齢引き下げは、民主主義の観点から議論されるべき問題であり、若者の政治参加を促進し国政への関心を高める効果や、国政に広く多様な民意を反映させる重要性を踏まえたものである。これに対し、少年法の適用年齢は、罪を犯した少年に対し、国や社会がその少年とどのように向き合うのかという問題であって、選挙権の承認とは全く異なる視点から検討されなければならない。
 そもそも少年法は、少年の問題点を把握し、少年の可塑性、未成熟性に着目し、少年への教育的働きかけや環境の調整をおこない、もって少年の立ち直りを図ることを目的とするものである。そしてかかる趣旨に基づき、少年法の適用年齢につき、旧少年法では18歳未満としていたところ、現行少年法(昭和23年制定)がこれを20歳未満へと引き上げたという歴史的経緯がある。
こうした少年法の趣旨を受けて、20歳未満の少年に対する司法手続きは、非行を犯したと考えられる少年をすべて家庭裁判所に送致することとし、裁判官、家庭裁判所調査官、付添人、場合によっては少年鑑別所の技官などが、少年の性格、家庭環境、交友関係などの問題点を把握し、医学、社会心理学などの専門的観点からの検討も加え、少年の問題点を解決するために様々なアプローチがなされている。
 その結果、少年の抱える問題点が深刻である場合には、教育施設である少年院に少年を収容することによって、少年の成長発達を促すとともに、少年の問題点の克服を図るための指導、教育が行われる。
 仮に少年法の適用年齢が18歳未満に引き下げられると、統計上少年被疑者の約4割が少年法の手続から排除され、上記のような更生のための支援を受けることができなってしまう。それでは、教育的処遇により少年の立ち直りを図ろうとした少年法の趣旨が損なわれることになるし、少年が保護的、教育的措置を受ける機会がないまま社会復帰すれば再犯が増加し新たな犯罪被害者を生み出す恐れもある。
 少年法の適用年齢引き下げの議論の背景には、続発する少年の凶悪事件に対処する必要がある、少年法により少年が厳罰を受けない、などの意見がある。
 しかしながら、統計上ここ約10年ものの間、少年事件は凶悪犯を含めて減少しつづけている。また、重大事件については原則として検察官に送致されて成人と同様の刑事手続きを受け、少年に対する刑事裁判においても死刑判決が下される可能性があるなど、現在の少年法の仕組みによっても、重大な罪を犯した少年が厳罰を受けることがある。
 このように、今般の少年法適用年齢引き下げの議論は、少年法の立法趣旨や歴史的経緯を軽視するものであるだけでなく、現行少年法を改正する立法事実に乏しいものであって到底容認することができない。
 よって、当会は、少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げる法改正に強く反対する。

2015年(平成27年)7月8日
函館弁護士会
会長 木下 元章

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