2021.2.2(火)

感染症法・新型インフルエンザ特措法の改正案の見直しを求める会長声明

1. 現在、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症法」という。)及び「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下「特措法」という。)の改正案が国会で審議されている。新型コロナウイルスの感染が急拡大し、医療環境が逼迫する中、収束のための有効な施策が必要であることは言うまでもない。しかし、今回の改正案は、本来保護の対象となるべき感染者や事業者の基本的人権の擁護や適正手続の保障を欠き、罰則をもってその権利を制約し、義務を課すものであって、感染の拡大防止や収束という目的に対して十分な有効性が認められるか疑問である。そこで当会は、感染症法・特措法の改正案の抜本的な見直しを求める。

2. まず、感染症法は、「過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である」、「感染症の患者等の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応する」などとした「前文」を設けて法の趣旨を宣言し、過去の反省等に基づき、伝染病予防法を廃止して制定された法律である。

3. ところが、今回の改正案は当初、入院措置に応じない者等に懲役刑・罰金刑、積極的疫学調査に対して拒否・虚偽報告等をした者に対して罰金刑を導入するなど感染症法の目的・制定経緯を無視し、感染者の基本的人権を軽視するものに他ならなかった。その後改正案は、世論の意見等を受け、刑事罰ではなく行政罰である過料とすることとされた。しかし、たとえ行政罰に変更したとしても、感染者の基本的人権が軽視するものであることに変わりはない。

4. 新型コロナウイルス感染症は、無発症の段階でも強い感染力があり、それゆえ予想外の感染者、原因不明の感染者も少なくないが、残念ながら現状でも感染したこと自体を非難される風潮がないとはいえない。また、入院治療や施設療養を迅速に受けられなかったり、休業補償が受けられなかったりする市民もいる状況で、入院措置に従わない者等を罰則の対象とすることは前記の感染症法の立法趣旨にそぐわずかえって偏見を助長する恐れがある。また、諸外国がロックダウンに罰則等の強制力をもって望んでいながらも感染が拡大している例を見れば、罰則が感染拡大防止につながるとは限らない。さらに、医学的知見・流行状況の変化によって、調査の内容、対象者が変わりうるし、流行状況によって入院措置の対象の範囲も変わり、地域によって不公平な罰則の適用がなされるおそれもある。

5. 次に、特措法の改正案は、「まん延防止等重点措置」として都道府県知事が事業者に対して営業時間の変更等の措置を要請・命令することができ、命令に応じない場合は過料を科し、要請・命令したことを公表できるとしている。

6. しかし、改正案上、その発動要件や命令内容が不明確であり、都道府県知事に付与される権限は極めて広範である。そのため、恣意的な運用のおそれがあり、罰則等の適用に際し、営業時間の変更等の措置の命令に応じられない事業者の具体的事情が適切に考慮される保証はない。

7. さらに、感染拡大により経営環境が極めて悪化し、休業することさえできない状況に苦しむ事業者に対して要請・命令がなされた場合には、当該事業者を含む働く者の暮らしや命さえ奪いかねない深刻な結果を招いてしまう。かかる要請・命令を出す場合には、憲法の求める「正当な補償」となる対象事業者への必要かつ十分な補償がなされなければならない。また、その補償は、事業者間の不公平感を生まないよう、事業所の規模やその内容によって適切かつ十分になされるよう配慮が必要である。

8. また、不用意な要請・命令及び公表は、感染症法改正案と同様、いたずらに風評被害や偏見差別を生み、事業者の名誉やプライバシー権や営業の自由などを侵害するおそれがある。

9. 新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するためには、政府・自治体と市民との間の理解と信頼に基づいて、感染者が安心して必要な入院治療や疫学調査を受けることができるような検査体制・医療提供体制を構築すること及び事業者への正当な補償こそが必要不可欠なのである。

以上の観点から、当会は、今回国会に提出された感染症法及び特措法の改正法案に対して、さらなる見直しを求めるものである。

2021年(令和3年)2月2日
函館弁護士会
会長 堀田 剛史

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