2020.8.26(水)

最低賃金額の引上げ等と中小零細企業への実効的な支援等を求める会長声明

 現在の北海道の最低賃金は861円であり、この水準ではフルタイム(1日8時間、週40時間、月173時間)で働いても、月収約14万8953円、年収約179万円にしかならない。
 ワーキングプアの基準となる年収は一般的に200万円以下とされているが、最低賃金で得られる年収はこれにすら届かない金額である。若年層のみならずあらゆる世代が賃金のみで生活を維持することは難しく、将来にわたって安定した生活を送ることなどおよそ不可能であるのが現状である。
 政府は、2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」において、今年度までに最低賃金を「全国最低800円、全国平均1,000円」とするという目標を明記し、昨年度まで4年連続で約3%の引上げを実現してきた。
 もっとも、今年度の中央最低賃金審議会は、新型コロナウィルス感染症拡大による現下の経済・雇用への影響等を踏まえ、引上げ額の目安を示すことは困難であり、現行水準を維持することが適当であるとの答申をまとめ、北海道地方最低賃金審議会もまた北海道内の最低賃金を据え置くことが妥当である旨の答申を行った。
しかし、労働者の生活を守り、新型コロナウィルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも、最低賃金額の引上げを後退させてはならない。多くの非正規雇用労働者をはじめとする社会全体のライフラインを支える労働者の中には、最低賃金付近の低賃金で働く労働者が多数存在するところ、これらの労働者の労働に報い、その生活を支え、社会全体のライフラインを維持していくためにも最低賃金の引上げは必要不可欠である。
 また、最低賃金の地域間格差も、見過ごせない状況となっている。
 すなわち、現在最も高い東京都における最低賃金額が1,013円であり、北海道との差額は152円となっている。このような最低賃金の格差は、賃金が高い首都圏での就労を求めるが故の地元離れを招いており、地方における人口流出や労働力不足を深刻化させる原因ともなっているのである。このような問題を解消し、地域の活性化を図るためにも、最低賃金の引上げを伴った地域間格差の是正は喫緊の課題というべきである。日本弁護士連合会においても2020年2月20日付けで、「全国一律最低賃金制度の実施を求める意見書」を発表しており、政府においても、全国一斉一律最低賃金の実現に向けた検討を開始するべきである。
 もっとも、最低賃金の引上げに関しては、実際に労働者に対して賃金を支払う企業、とりわけ大きな影響を受けると懸念される中小零細企業への配慮は欠かせない。
 現在でも、新型コロナウィルス感染拡大に備えた支援策が拡充されているところではあるが、最低賃金の引上げに伴い、政府は、社会保険料の減免や減税、補助金支給などの長期的継続的な支援策の検討を進めるべきである。
 さらに、最低賃金の決定過程を透明化して、審理の実質的な内容を検証するためには、審理の非公開部分はあってはならず、中央最低賃金審議会及び北海道地方最低賃金審議会は、委員会・部会審理を含めた全ての審理を全面的に公開するべきである。
 以上により、当会は、北海道労働局長に対して、最低賃金の引上げを求めるとともに、中央最低賃金審議会、北海道地方最低賃金審議会に対し、全ての審理を全面的に公開することを求める。

2020年(令和2年)8月26日
函館弁護士会
会長 堀田 剛史

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