2022.3.16(水)

オンラインを活用した接見交通の早期実現を求める会長声明

1. 令和4年3月15日、法務省の検討会(「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」。以下、「検討会」という。)の報告書がとりまとめられ、今後具体的な法整備がなされる見込みである。この検討会における論点項目には、「書類の電子データ化、発受のオンライン化」「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」が挙げられており、この中で、「被疑者・被告人との接見」も掲げられている。そして、接見方法については、「ビデオリンク方式」(対面していない者との間で、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しなが
ら通話することができる方法)による接見(以下「オンライン接見」という。)を行うことについて、関係機関による「更なる協議が進められることが期待される」とまとめられている。

2. 日本弁護士連合会では、できる限り早期に被疑者の権利の保護をするため、逮捕段階における公的弁護制度の創設を議論している。逮捕段階における公的弁護制度が法制化した際には、被疑者の権利保護の観点から、逮捕直後における迅速な接見を行う必要がある。そして、逮捕直後における迅速な接見を行うためには、オンライン接見が有用な手段になる。

3. 弁護人が、被疑者・被告人に対して、できる限り早期に接見し、刑事手続の説明と取調べに対する適切な助言を行うことは極めて重要であり、それがえん罪防止の第一歩である。しかしながら、災害、悪気象条件、新型コロナウイルス感染症のまん延等の状況においては、早期接見が困難な場合がある。加えて、北海道は、管轄区域が広大である一方、過疎地にも収容施設が存在しており、弁護人の事務所から接見に赴くためにかなりの移動時間を要する上、冬期においては吹雪や路面凍結のためさらに移動時間を要し、時には移動そのものが困難になることもある。この冬においても、公共交通機関が途絶するような大規模な交通障害は記憶に新しい。オンライン接見実現の必要性は、北海道においてはすこぶる高いものである。

4. 検討会では、オンライン接見の早期実現を求める意見に対して、①成りすましや弁護人以外の第三者の同席による逃亡や罪証隠滅のおそれへの懸念、②新たな人的・物的設備の整備の負担がある等の理由で、その導入に慎重な意見がみられた。また、オンライン接見を導入するとしても、被疑者・被告人を収容する施設とビデオリンク方式でつながっている特定の場所(アクセスポイント)に弁護人が出向いてその場で接見する方式によるべきであるという意見もあり、さらには、アクセスポイント方式すら、人的・物的設備整備の負担が大きく全国一律の
実現は困難であり、裁量的な接見実現の方法として整備状況に応じて適用していくべきではないかというような意見もみられた。

5. しかし、これらの消極意見は、弊害に対する過剰な危惧であり、IT化の実現意欲をも疑わせるものといわざるを得ない。成りすましを回避するため、刑事収容施設の窓口にて、弁護人に接見申込書に署名押印させることがはたして不可欠であろうか。IT化はそのような行為が不要であることを出発点にした議論のはずである。また、弁護人が懲戒処分の危険を冒してまで、第三者を同席させる等の事態を想定することは合理的とは言えない。さらに、IT化を進める上で、新たなIT機器を導入するのは当然のことであり、そのために予算が必要になるのも当然 の前提である。新たな予算が必要になることはオンライン接見ができないとか、ゆっくりと少しずつ進める理由にはならない。取調べの可視化の際にも同種の問題がある旨指摘されたが、実際には人的・物的体制の整備に支障はなかったという実例もある。

6. 以上のとおり、オンライン接見に関する議論は、現状を肯定するのではなく、現に被疑者・被告人が何を必要としているかということを念頭に置いた上で、人権保障のための IT技術の活用という観点から、早期実現を前提にして関係機関に よる協議が進められるべきである。

以上

2022年(令和4年)3月16日
函館弁護士会
会長 平井 喜一

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