2020.5.15(金)

検事長の勤務延長に関する閣議決定の撤回を求め、検察庁法の一部改正に反対する会長声明

検事長の勤務延長に関する閣議決定の撤回を求め、検察庁法の一部改正に反対する会長声明

 政府は、本年1月31日の閣議において、2月7日付けで定年退官する予定だった東京高等検察庁検事長について、国家公務員法(以下「国公法」という。)第81条の3第1項を根拠に、その勤務を6か月(8月7日まで)延長する決定を行った。
 しかし、検察官の定年退官は、検察庁法第22条に規定され、同法第32条の2において、国公法附則第13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基づいて、同法の特例を定めたものとされており、これまで国公法81条の3第1項は、検察官には適用されていない。
 これは、検察官が、強大な捜査権を有し、起訴権限を独占する立場にあって、準司法的作用を有しており、犯罪の嫌疑があれば政治家をも捜査の対象とするため、政治的に中立公正でなければならず、検察官の人事に政治の恣意的な介入を排除し、検察官の独立性を確保するためのものであって、憲法の基本原理である権力分立に基礎を置くものである。
 したがって、国公法の解釈変更による本件勤務延長は、解釈の範囲を逸脱するものであって、検察庁法第22条及び第32条の3に違反し、法の支配と権力分立を揺るがすものと言わざるを得ない。
 さらに政府は、本年3月13日、検察庁法改正法案を含む国公法等の一部を改正する法律案を通常国会に提出した。この改正案は、全ての検察官の定年を現行の63歳から65歳に段階的に引き上げた上で、63歳の段階でいわゆる役職定年制(63歳以降は検事長や次長検事、検事正などの幹部には就けない)が適用されるとするものである。そして、内閣又は法務大臣が「職務の遂行上の特別の事情を勘案し」「公務の運営に著しい支障が生ずる」と認めるときは、裁量で役職定年(63歳)を超えて次長検事や検事長であり続ける、あるいは定年(65歳)さえも超えて当該官職で勤務させることができるようにしている(改正法案第9条第3項ないし第6項、第10条第2項、第22条第2項、第3項、第5項ないし第8項)。
 しかし、この改正案によれば、内閣及び法務大臣の裁量によって検察官の人事に介入をすることが可能となり、検察に対する国民の信頼を失い、さらには、準司法官として職務と責任の特殊性を有する検察官の政治的中立性や独立性が脅かされる危険があまりに大きく、憲法の基本原理である権力分立に反する。検察官は「公益の代表者」(検察庁法第4条)であって、刑事事件の捜査・起訴等の検察権を行使する権限が付与されており、ときに他の行政機関に対してもその権限を行使する必要がある。そのために、検察官は独任制の機関とされ、身分保障が与えられているはずである。にもかかわらず、内閣が、恣意的な法解釈や新たな立法によって検察官の人事に干渉することを許しては、検察官の政権からの独立を侵し、その職責を果たせなくなるおそれがあり、政治からの独立性と中立性の確保が著しく損なわれる危険があるのである。
 しかしながら、政府及び与党は、誠に遺憾なことに、検察庁法改正法案を国公法改正との一括法案とした上で衆議院内閣委員会に付託し、法務委員会との連合審査とすることすらなく、性急に審議を進めようとしている。役職定年の例外と勤務延長の運用基準すら明らかにされないまま、まさに本日開催予定の衆議院内閣委員会において本法案の採決にまで至る可能性もある。そもそも、検察庁法の改正に緊急性など全くない。今般の新型コロナウイルス感染症の蔓延防止のための新型インフルエンザ等対策特別措置法上の緊急事態宣言が継続し、国民が集会、デモ行進、署名活動等による民意の形成や表明を行うことも大幅に制限された状況下において、国民に熟慮の機会を与えることないまま、かくも重大な問題性をはらんだ本法案について、わずかな時間の議論だけで成立を急ぐ理由は皆無である。
 よって、当会は、違法な東京高等検察庁検事長の勤務延長の閣議決定の撤回を求めるとともに、国公法等の一部を改正する法律案中の検察官の定年ないし勤務延長に係る特例措置の部分に反対するとともに、拙速な審議を行うことに強く抗議する。

2020年(令和2年)5月15日
函館弁護士会
会長 堀田 剛史

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